東京地方裁判所 平成5年(行ウ)115号 判決
原告
松田文雄(X)
被告
墨田区長(Y)
奥山澄雄
右指定代理人
原田憲治
同
山田治
同
宮野暲彦
同
青木剛
被告
東京都知事(Z) 鈴木俊一
右指定代理人
金岡昭
同
小嶋稔
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 戸籍謄本の交付請求拒否処分の取消しを求める訴えについて(争点1)
市町村長がした戸籍謄本の交付に関する処分に不服がある者は、家庭裁判所に不服の申立てをすることができる。その不服の申立ては家事審判法九条一項甲類に掲げる事項とみなされ、戸籍謄本の交付に係る処分について行政不服審査法による不服申立てをすることはできないものとされている(戸籍法一一八条、一一九条、一一九条の二)。そして、地方裁判所に提起された家事審判法九条一項甲類に掲げる審判事項を内容とする訴えについては、これを民訴法の規定に基づいて家庭裁判所に移送する余地はなく、不適法として却下すべきである(最高裁判所第二小法廷昭和三八年一一月一五日判決、民集一七巻一一号一三六四頁参照)。そうすると、被告区長がした本件各処分中の戸籍謄本の交付請求拒否処分の取消しを求める訴えは、不適法として劫下すべきである。
二 世帯全員の本籍及び続柄の記載を省略しない住民票及び戸籍の附票の各写しの交付請求拒否処分について(争点2)
1 住民基本台帳法は、住民票又は戸籍の附票の各写しの交付を市町村長(特別区については、区長、以下同じ。)に対して請求するには、その請求事由を明らかにしなければならないものとしている(一二条二項、二〇条による一二条二項の準用)。その趣旨は、住民票又は戸籍の附票(以下「住民票等」という。)に記載された情報は、個人のプライバシーに属するものであるから、その写しの交付請求に応ずるについては、できるだけ住民票等に記載された者のプライバシーの保護を図る必要があることから、これらの交付請求について事由を明らかにさせ、市町村長をして、当該事由が事実であるかどうか及びその事由によれば住民票等の写しの交付を請求する必要があるかどうかを審査させ、そのいずれかが否定されれば、請求する者が請求事由を明らかにしなかったものとして、その交付を拒否することができることとしたものと解すべきである(さらに、当該請求が不当な目的によるものであることが明らかと認められる場合には、請求事由の有無にかかわりなく、住民票等の写しの交付を拒否することが許される。一二条四項、二〇条による一二条四項の準用)。
住民基本台帳法は、右の点に加え、特に住民票の写しの交付請求については、住民票の記載事項のうち、他人に知られたくない度合いの高い同法七条四号、五号及び九号から一三号までに掲げる事項について、市町村長が、「特別の請求」がない限り、これらの事項の全部又は一部の記載を省略した写しを交付することができるものとした(同法一二条三項)。ここでいう「特別の請求」のある場合とは、交付を請求する者が単に右各事項を省略しない写しの交付を請求したというのでは足りず、市町村長がその請求をした者の明らかにした請求事由によって、右各事項を省略しない写しの交付を特に必要とすると認めることのできる場合をいうものであり、そのような必要性の認められない場合においては、市町村長は「特別の請求」がなかったものとして、右各事項を省略しない住民票等の写しの交付を拒否することができるものと解すべきである。
2 前提となる事実関係によれば、外山秀之助は前記1<3>の訴訟当事者ではなく、原告が右訴訟の遂行のために、外山秀之助に係る住民票等の写しを証拠として提出する必要はなかったものと認められる。
この事実に、前示したところを総合すれば、原告の右交付請求については、右各事項を省略しない住民票の写しの交付を要する特別の請求には当たらないものであることが明らかであり、しかも、原告は交付請求の際に、住民票の写しが外山秀之助に係る世帯全員の本籍及び続柄の記載を省略したものであれば、その交付を望まない旨を明らかにしていたというのであるから、被告において、原告の請求どおりの住民票の写しを交付しなかった処分に、違法な点はないというべきである。
三 平成五年四月二八日における交付請求について(争点1及び2)
〔中略〕住民基本台帳法による住民票等の写しの交付請求は、書面によらなければならないとされてはいないし、その拒否も口頭による場合があり得るから、原告と右職員との応酬をもって、請求とそれに対する担否と認める余地がないとはいえない。そこで、そのように認めるとしても、住民票等の写しに係る交付請求の拒否処分に不服がある者は、これについての審査請求を経た後でなければ、当該処分についての取消しの訴えを堤起することができないとされており(住民基本台帳法三一条の二、三二条)、また、戸籍謄本に係る交付請求拒否処分については、前記のとおり、当庁に対して取消訴訟を提起することが許されない事柄を内容とするものであるから、その訴えはいずれにせよ不適法である。
(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 榮春彦 橋詰均)